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装置の発明・再発明と偶然
─ 異なった経緯から独立に考案された累積記録
立命館大学文学部 特別任用教授藤 健一
Profile─ふじ けんいち 立命館大学文学部助手,助教授を経て教 授,2015年4月,立命館大学名誉教授。 専門は実験心理学・実験的行動分析学・ 心理学実験装置史。著訳書は『パピーニ の比較心理学:行動の進化と発達』(分担 訳,北大路書房)など。 図 1 装置や機械の発明と再発明(オグバーンとトーマスの 全 148 の発見・発明品のリストから 20 の発明品を選び,こ れを図で表した。著者原図)Ogburn, W. F. & Thomas, D.(1922)Are inventions inevitable? A note on social evolution. Political Science Quarterly, 37, 83-98.
図 2 作業記録時計
Poppelreuter, W., & Chardon, G.(1921) ドイツ帝国特許 Nr. 314002, Fig.4, 5 図 3 ポッペルロイターの作業記録時計の記 録法の考案と,累積反応記録法との比較図 1900 1875 1850 1825 1802 1812 1830 1830 1830 1831 1837 1832 1835 1835 1839 1839 1840 1845 1845 1847 1855 1872 1847 1850 1863 1866 1869 1876 1877 1877 1893 1895 1878 1881 1883 1888 1847 1850 1840 1846 1831 1835 1807 1800 汽船 輪転機 電動機 写真 実体鏡 電磁時計 印字電信機 タイプライター 市街電車 渦巻ポンプ 自励発電機 カラー写真 電話 マイクロホン 蓄音機 飛行機 ミシン 電信 空気圧レバー 電気鉄道 発 明 品 発明・再発明年
3 心理学ミュージアム 心理学の実験装置はいうに及ばず,現在使われている機械や装置はいずれも誰かが考案し製作したもので す。古くはオグバーン(Ogburn, W. F.)とトーマス(Thomas, D.)が1922年に148の発明品や発見のリス トを挙げています。そのうちの一部だけ図にしたものを図1に示しました。これをみると,同じ機械や装置 であっても,複数の人間が「発明」と「再発明」をしているということです。例えば実体鏡は,1839年に ホイートストン(Wheatstone, C.)が,1840年にエリオット(Elliott, J.)が,それぞれ考案したと考えられ ます。オグバーンとトーマスのリストは,装置や機械の発明や考案は,似たような環境や状況が与えられた とき,ほぼ同じ発明に至ることがある,ということを示しています。それでは,発明された装置が同じ構造 や機能を持っていた場合,開発した理由も必ず同じと考えてよいのでしょうか。 作業記録時計 ドイツの産業心理学者でもあったポッペルロイター(Poppelreuter, W. 1886-1939)が製作 した記録装置「Arbeitsschauuhr」を,図2に示しました。この図は,ポッペルロイターらが1921年に取得 した特許の説明図です。この作業記録時計の原型は1917年頃には製作されており,その後改良が加えられ ました。図の中央には,記録用紙を水平方向左に移動させるための記録筒と,その駆動機構が組まれていま す。当時の実験装置は直流(おそらく電池)で駆動されており,この装置も電磁石のアーマチュアの往復直 進運動をラチェット歯車で回転運動に変換し,記録筒や記録ペンの巻上げ動力にしています。図中ののこぎ り状の記録は,オペラント実験などにある累積反応記録と同じに見えます。では,ポッペルロイターは,ど のような必要があって,このような記録装置を「発明」したのでしょうか。ポッペルロイターは,関心のあっ た産業心理学的研究の効率と測定精度とを高める必要性を痛感して,作業行動の記録の機械化(自動化)を 目指しました。そこで採用した作業行動の記述方法が,クレペリン(Kraepelin, E. 1856-1926)の精神作業 検査の方法でした。当初,ポッペルロイターが必要としたのは,一定時間ごとの作業量と,時間経過に伴う 作業量変化とを描出することでした。一方,オペラント実験などの累積反応記録は,結果的にはポッペルロ イターと同じ体裁の記録を描出しますが,この累積記録は,事象の単位となる反応(例えばレバー押し反応) の発生時刻を要素とするイベント記録であり,これを時系列に従って累積的に描出したものです。スキナー はポッペルロイターの作業記録時計の存在を知らぬままに,独立に1929年以降の一連の機械式累積記録器 を考案・製作したと考えられます。図3に,二つの描画法の比較を示しました。ポッペルロイターの関心は, 作業量,図でいえば「棒」の高さと,その時間的推移パターンでした。一方,スキナー(Skinner, B. F.)ら のオペラント行動研究においては,時間経過に伴う反 応の加減速や停止といったパターンそのものでした。 さまざまな累積記録 例えば気象観測のような長期 的連続的な記録が必須の分野では,古くから観測具と して考案されていました。積算雨量計の記録の一例を 図4のAに示しました。その時間経過は記録紙の左か ら右であり,降雨量は転倒枡の転倒を単位として記録 ペンが用紙上方向に移動します。降雨量は累積記録の 高さで知ることができました。作業記録時計の記録例 をBに,またオペラント反応の累積記録の例をCに示 しました。興味深いことに,ポッペルロイターは後に なり作業記録時計による累積記録の分析方法につい て,分析は個人を単位とすること,時間分析を用いる こと,反応休止の出現や反応率の増減についても言及 しています。異なる理由で考案された装置が,たまた ま同じ累積記録という描出形式をとったことから,そ の記録を読み取る研究者の注目点が同じになったこと は,インストルメンテーションを考えるうえで,たい へん示唆に富んでいるといえましょう。 図 4 さまざまな累積記録。A は積算雨量計の累積 雨量の記録(Sprung, A., & Fuess, R., 1889, Fig. 6), B は作業記録時計による機械加工作業の累積作業記 録(Poppelreuter, W., 1929, Abb. 51 の一部),C は キンギョの水中パネル押し反応を FR500 で強化した ときの累積反応記録(藤 , 1996, p62, Fig. 17 の一部) である。記録の描出方法をこの図の並べ方で説明す ると,A は横方向に時間の経過(1 時間でリセット)を, 一定の水量を単位とした積算雨量を縦方向に累積的 に描く。一方 B と C は,いずれも時間の経過は縦方 向に,そして単位反応を横方向に累積的に描く。 A B C